熊本県立球磨工業高等学校

建設に関する教育振興に係る助成

熊本県立球磨工業高等学校

地域と繋がり、
伝統建築の技と心を継承する

司馬遼太郎が『街道をゆく』で「日本で最も豊かな隠れ里」と記し、
文化庁の第1 回「日本遺産」にも選定された熊本県の人吉球磨地域。
ここに伝統と向き合い、その技と心を
受け継ぐために日々学ぶ生徒たちがいる。
災害にも負けず、地域に活力を与える若い力を取材した。

2022年度に製作中の祠と建築科伝統建築コースの生徒たち

2022年に創立60周年を迎えた熊本県立球磨工業高等学校。この学校は機械・電気・建築(建築コースと伝統建築コース)・建設工学の4学科に加えて、高校卒業後の2年課程として伝統建築専攻科も備えており、先端的工業技術から伝統的なものづくりまで、幅広い分野のスペシャリストを育成している。特に伝統建築の分野では専攻科まで備えた全国唯一の工業高校として知られているが、同校がこれほど伝統建築に注力している理由として建築科主任の松葉英星先生はこう語る。

「この人吉球磨地域には、熊本県内で重要文化財の指定を受けている建造物の約8割が集中し、青井阿蘇神社のように国宝に指定されているものもあります。これらの多くは、昭和の終わり頃に行われた専門調査によって埋もれていたその価値に光があたり、重文の指定を受けたものです。そしてこうした貴重な建造物を修復できる人材を育てるため、平成元年に本校建築科に伝統建築コースが設けられ、平成16年には専攻科も設置されることになりました」。

左:原田茂校長(写真右)と松葉英星先生(写真左)/中左:専攻科の木造校舎内観。本校に伝統建築コースが設置された理由には、地元林業の振興という側面もあった
中右:校内には生徒の手による作品がいくつも設置されている/右2 点:「令和2 年7 月豪雨」で大きな被害を受けた旅館や民家で、生徒たちが泥出しなどを行った

「令和2年7月豪雨」の被害と復興支援活動

同校の建築科伝統建築コースと伝統建築専攻科は、その設立以来一貫して地域に密着した活動を展開してきた。特に専攻科は、課題研究の授業の中で、地域の文化財修復や祠の製作なども長年に渡り行ってきた。そのような中、2020年7月3日から4日にかけての豪雨がこの地域を襲った。同校の原田茂校長はこう語る。
「この豪雨により一晩で町並みが一変するほどの深刻な被害を受けました。本校では被災直後から生徒たちが被災家屋の泥出しなどのボランティア活動に携わりました」。

上2点:専攻科ではお宮の組物など、難易度の高い作品に取り組む
下3点:建築科伝統建築コースの授業。鑿(のみ)を用いて仕口を作る様子

災害から2年以上が経ち、人々は以前の生活を取り戻しつつあるが、流出した神社や祠などの建造物は、まだ手付かずのものも多い。
「そこで本校の伝統建築に関する強みを活かした独自の復興支援ができないかと考えたのです」。(原田校長)

地域に活力を与える

災害翌年の2021年度は、全壊した地域の氏神様・浜宮神社の再建に取り組んだ。ここでは建築科の高校生が覆\sl86\slmult0おおいや屋を、専攻科の1年生が本殿と鳥居の製作を行い、共同で復興に取り組んだ。また2022年度は、くま川鉄道川村駅に設置する祠の製作に取り組んだ。川村駅の近隣には十島菅原神社があり、ここには「とおします」を合言葉に受験生など多く人々が祈願に訪れる。2017年、地域活性化のために最寄駅である川村駅のホームにもこの神社の祠を設けることになり、当時の建築科の生徒たちの手によって製作・設置された。しかしこの祠も災害で流失してしまい、これをあらためて製作する活動を展開した。

「最近、地域の方々の心の拠り所であったお堂やお宮の修復依頼が増えてきました。生徒たちの技能向上と災害復興という地域貢献が両立できるということではじめたこの活動ですが、生徒たちの若い力が地域の方々の活力になっていると感じています」と語る松葉先生。これからも地域に根差して伝統を育む教育は続いていく。

左3点:2021年度の浜宮神社再建プロジェクト。左から順に、災害前の様子。災害により全壊した神社。生徒たちの手により再建した本殿・鳥居・覆屋。
右3点:2022年度の祠再建プロジェクト。左から順に、2017年に生徒が製作し川村駅に設置されていた祠。流失した駅。生徒たちの手により製作中の新しい祠。
上3点:2021年度の浜宮神社再建プロジェクト。左から順に、災害前の様子。災害により全壊した神社。生徒たちの手により再建した本殿・鳥居・覆屋。
下3点:2022年度の祠再建プロジェクト。左から順に、2017年に生徒が製作し川村駅に設置されていた祠。流失した駅。生徒たちの手により製作中の新しい祠。

熊本県立球磨工業高等学校

〒868-8515 熊本県人吉市城本町800

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